雨上がりの午後は、何かが起こる。何かが怒る。
狭い路地の小さい細長い店に親子連れ。店番をしているのは、通称”ノートルダムの背むし男”。
母親は、ガラスケースに飾られた古いスヌーピーの人形達を熱心に見ている。 それは、60年代のピーナッツ・ポケットドール、もしくは、シャンプー ドール。1969年製アポロ月面着陸を記念して作られた宇宙服を着たスヌーピー・アストロノーツ。
子供は、言う。「ママ、もう行こうよ。ねぇ、行こうよ。ボク、この店嫌だよ。おもちゃも人形も全部古いよ。汚れてるじゃん。まさか買わないでしょ??汚いのになんでこんな値段なの?もう、帰りたいよ。もう、行こうよ。。。。」
夢中のママは、ガン無視。完全シカト。適当にあしらっているばかり。
価値観は、人それぞれ。アンティーク品は、ただのゴミ。ブランドバッグは、ただの鞄。綺麗な宝石もただの石。アイドルグループはただの人。人間は、おろかな哺乳類。遠い未来も、明日以降。
子供は、我慢ならない。自分がどんなにこの店が気に入らないかを大声で撒き散らす。店番の脊むし男は、黙っている。聞こえていないはずはない。無表情でただただ座っている。
親子連れが店を出ようとした時、彼が立ち上がった。トレードマークのレイバン・タレ目サングラスをサッとはずしてこう言った。
「ガラスケースのところに傘を忘れてますよ」
外では、雲の間からやさしい日差しが通りを照らす。飛行機の音が遠くから聞こえる。店の外に出る。狭い路地を猪八戒ヅラをしたロリータファッションの女性が歩く。彼は見とれて目が離せない。
人として、言いたいことを言う。やりたいことをやる。好きなことを仕事にして、収入はそれについてくることもあるし、こないこともある。物事を大げさに考え過ぎないようにする。それでいい。彼は小さくうなづいた。
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